「動物心理学」という分野があるのをご存知だろうか。元はといえばハトやラットを用いて学習の仕組みを明らかとするものであったが、この理論を犬にも応用することができると知り早速筆者自ら勉強してみた。それをご紹介したい。
1. 声かけ
2. おやつ
3. マッサージ
4. その他
犬は、人間が意図的に何かを教えなくても、自分でたくさんのことを学習しています。この犬の学習迫ヘを”おすわり”や”ふせ”などのトレーニングにも応用してみましょう。学習の法則に沿ったやり方ですすめれば、無理なく犬に学習させることができるだけでなく、犬の”自ら学習しようとする力”をうまく利用することができます。トレーニングは、犬にとってもあなたにとっても楽しい時間にきっとなるはずです。
犬は、「うれしいこと」が起こるとその「直前の行動」を学習します。この法則をトレーニングに応用しましょう。
「おすわり」と教えるときには「おすわり」の直後に「うれしいこと」が起これば、犬は「おすわり」を学習することになります。
ご飯やおやつを食べること、大好きなおもちゃで遊ぶこと、飼い主さんに撫でてもらうこと、何でもよいのです。「おすわり」や「ふせ」など、号令に従った後におやつをあげたり、撫でてあげたり、その子の好きなことをしてあげると自然と学習が進みます。
学習の効果をあげるためには望ましい行動のすぐ後に「うれしいこと」が起こらなければなりません。「おすわり」であれば、おしりを地面に落とすと同時にご褒美を与えます。名前を教えているなら、「ポチ」と呼んで振り返った瞬間、あるいは目があった瞬間にご褒美を与えます。
この時に大切なのは”タイミング”です。「おすわりしてからごほうびを用意して・・」というのでは遅すぎで効果が期待できなくなってしまいます。それどころかおすわりした後でご褒美を準備するまでの間の行動、例えばご褒美をおねだりするのにピョンピョン飼い主さんに飛びついていたりしていたらそちらの行動を犬は学習してしまうかもしれません。
望ましい行動の直後にその犬にとって「うれしいこと」が起こるようにしてあげるというのが鉄則です。
悪い例をひとつご紹介しましょう。「おいで」と犬を呼んでから犬を叱る方がいらっしゃいます。これでは、犬は「おいで」を学習することができません。飼い主さんのところまで走っていってその結果「うれしいこと」が起きれば、「飼い主さんのところまで走っていく」という行動が学習されますが、「うれしくないこと」が起きれば学習しないどころか、「叱られる」という「嫌なこと」を回避するために「おいでと呼ばれたら飼い主さんのところへは決して行かない」ということを学習してしまいます。
行動と一緒に号令をかけてあげましょう。「おすわり」であれば、おしりを地面に落とすと同時に翌゚決めておいた「おすわり」などの号令をかけます。そうすることで「おすわり」という号令と「すわる」という行動が徐々に結びつき、いずれは「おすわり」の号令ですわることができるようになります。
おすわりすることをまだ覚えていないうちから「おすわり、おすわりしなさい!おすわりって言ってるでしょ!」と号令を連呼される方がいらっしゃいます。このとき、犬の中では何が起こっているのでしょうか?「おすわり」を学習できないだけでなく「おすわり」と言われても別にすわらなくてもいいんだ、ということを学習してしまっているのです。
ご褒美を使ってトレーニングしましたが、いつまでたってもご褒美なしではできるようになりません。ご褒美を見せれば何でもできるのに・・・。
ご褒美を使って教えるとご褒美なしでは何もやらない子になってしまう・・・こんな声が良く効かれます。
どうしてこの子はご褒美を見せると何でもできるのに見せないとやらないのでしょうか?トレーニングの仕方にその答えがあります。
ご褒美は「おすわり」などの行動の前に提示するものではありません。必ず望ましい行動をした後に与えます。最初からご褒美が犬の前に存在しているとご褒美があるときしかやらなくなるのです。
ご褒美を使って教えた場合、毎回毎回「おすわり」の後でご褒美を与えなければならないのでしょうか?
これも多くの方が誤解をされている点です。
ご褒美は、望ましい行動に対して毎回与えるのではなく、「時々」与える方がその効力が長持ちし、効果があがるのです。これは前頁でご紹介した学習の法則どおりですね。
おすわりなど練習した動作が上手にできるようになってきたら、2回に1回、3回に1回、というように徐々に間隔をあけてながらランダムにご褒美を与えてあげてください。このとき大切なのは「ランダムに」という点です。20回に1回ご褒美をあげた直後には1回でご褒美をあげたりすることが大切なのです。
ランダムにご褒美をあげることで、その行動は犬の中にしっかりと定着します。例えご褒美が手元にないような状況でも号令でコントロールできるようになるのです。
また、一度「おすわり」や「ふせ」など教えたことが上手にできるようになったら、生活の中で、応用してみましょう。これによって、食べ物やおもちゃのようなご褒美を使わなくても、またどんな場面でも、あなたの号令に従うように自然にトレーニングが進みます。
ポチは、散歩に出かける前、うれしくて「早く扉を開けてよ!」と言わんばかりにピョンピョン飛び跳ねてしまいます。
この場合、ポチにとってうれしいことは何でしょうか?そうです。「扉が開いて散歩に出発する」ことですね。これからは扉を開ける前に、「おすわり」と号令をかけ、ポチのお尻が地面についた瞬間に扉を開けてあげてください。このときには「おすわり」に対してご褒美を与えることも、「いい子だね」と誉めてあげる必要はありません。なぜなら、「扉が開く」ということだけで、ポチにとっては何より「うれしいこと」が起きているからです。
ご褒美とは、食べ物や、おもちゃや、声をかけること、撫でてあげることだけではありません。犬が望ましい行動を取った後で、その場その場でうれしいことが起こるように演出してあげることも含みます。このポチの例では、飼い主さんがポチのおすわりと同時に、さりげなく扉を開けてあげる演出をすることで、結果的に、犬の「おすわり」という望ましい行動の直後に、犬にとって「うれしい」ことが起きたことになり、「おすわり」の行動が定着します。
おもちゃを与えるとき、だっこしてあげるとき、サークルやクレートから出してあげるときなど、あらゆる場面でこの方法が使えます。「おすわり」や「ふせ」をさせ、号令に従った瞬間に、おもちゃを与える、だっこをする、サークルやクレートの扉を開ける、など犬にとってうれしいことが起きるように演出してあげてください。
ジョンは、散歩が大好きです。飼い主さんを後ろに従え、先頭を切って意気揚揚と歩きます。当然リードはピンとはり、右に左に、ジョンの行きたい方向へお散歩は進みます。
お散歩が上手にできない、リードをひっぱる、こういう悩みをお持ちの飼い主さんは多いのではないでしょうか?どうして犬はリードをひっぱるのでしょうか?リードをひっぱらず、飼い主さんの横について歩くことを学習させるにはどうすればいいのでしょうか?犬がリードを引っ張るのは、自分の行きたいところに進めるからです。「リードを引っ張る」という行動の直後に、「自分の行きたい方向へ進める」という犬にとって「うれしいこと」が起こるからです。逆に、引っ張ったら先に進めなければ、引っ張らなくなるはずです。
これからは、あなたの犬がリードを引っ張ったら、その場で立ち止まりましょう。このときに、あなたは犬に声をかけたり、叱ったりする必要は全くないのです。知らん顔して立ち止まります。そして、ちょっとでもリードが緩んだら先に進みます。最初のうちは、犬の行きたがっている方向へ進んであげるようにしてもいいでしょう。そして、引っ張ったらまた立ち止まります。これを繰り返すうちに、引っ張らなければ先に進めるということを犬は学習します。つまり、犬に「引っ張るな」ということを強制的に教えなくても、「引っ張らなければ先に進める」というさりげない演出をしてあげるだけで犬に望ましい行動を学習させることができるのです。
ご褒美を使う方法は犬を“もの”で釣っているようで抵抗があるんですが・・・。犬だから仕方ないのでしょうか?
こんなふうに思われる方も多いのではないでしょうか?
確かに人間は犬よりはずっと賢い生き物です。高度な理解力や判断力、理性もあります。犬のようにおやつをもらったり、遊んでもらったりすることで行動が変わったりするようなことはない、と思われるかもしれません。
しかし、お金や地位や名声、上司の評価などはどうでしょうか?人間にとってはとっても魅力的なもので、そのために残業する、勉強するなど行動は変化しているのではないでしょうか?
つまり、犬と人間では魅力的だと感じるものは違うけれど、それを得るために熱心になる、という点では同じなのです。
上司からがみがみ言われて無理やり仕事させられた、というより、頑張ったから昇格させてあげよう、ボーナスを奮発したよ、と言われる方が仕事に対してずっと前向きになり、また頑張ろうと思うでしょう。そして後者の上司の方が魅力的なリーダーであるはずです。
犬の場合はどうでしょうか?全く同じであることがおわかりになると思います。ご褒美を上手に使って楽しく犬とトレーニングすることは犬にとって良いことであるだけでなく、あなたが犬にとって魅力的なリーダーになるためにもとても大切なことなのです。