[犬しつけ理論]犬の学習心理学応用1

「動物心理学」という分野があるのをご存知だろうか。元はといえばハトやラットを用いて学習の仕組みを明らかとするものであったが、この理論を犬にも応用することができると知り早速筆者自ら勉強してみた。それをご紹介したい。

Q.あることをすると犬のストレスが減り、しつけにいい影響を及ぼすと言われていることがあります。それは何?

1. 声かけ
2. おやつ
3. マッサージ
4. その他

やってはいけないことを教える

帰宅したあなたに飛びつく姿や、ごみ箱をあさったり、盗み食いをしたり、犬のやんちゃっぷりは微笑ましいものですよね。その一方で、”やめなさい!”と躍起になって叱っても一向に聞かずイライラした経験を犬と生活をともにする方なら誰しもお持ちでしょう。大きな声をあげる前にちょっと立ち止まって考えてみてください。どうしてこんなことをするのか、どうすれば望ましい行動へ導くことができるのか、作戦を立てましょう。そのヒントがきっとここにあるはずです。

やってはいけないことを教える

望ましくない行動も”学習の法則”を使って上手に”やらないように”学習させましょう。

前ページでお話したとおり、一般的によく使われている”罰”には副作用があります。

”罰”を使わずに”望ましくない行動をやめさせ、良い行動へと導くアイディア”をこれからご紹介します。

方法 1 : 困った行動の後で「うれしいこと」「嫌なこと」が起こらないようにしましょう!

まず最初に、”その行動はどんな「うれしいこと」「嫌なこと」で学習されてしまったのか”ということを考えてみてください。やめさせたい行動の直後に「うれしいこと」が起こらないようにするだけで問題が解決することもたくさんあります。

例1)

ポチは、飼い主さんが帰ってくると決まって「ワンワン」と大きな声で吠えて「おかえり」の挨拶をします。飼い主さんはこの賑やかな”儀式”にちょっと困惑ぎみですが、日に日にエスカレートしています。

解説)

この場合どうすればいいのでしょうか?ポチにとって「飼い主さんが玄関を開けて入ってくること」「”ただいま”と頭を撫でてくれること」が「うれしいこと」のはずです。従って、吠えている間にはこの「うれしいこと」が起こらないようにすればいいのです。吠えやんだ瞬間にポチのの前に姿を現してあげてください。ポチの目の前まで出て、ポチが吠えている場合にはくるっと後ろを向いて、吠えやんだ瞬間にポチと向き合ってあげてもいいでしょう。とにかく吠えているときには、「姿を現わす」「声をかける」「撫でてあげる」などポチにとって「うれしいこと」を徹底的に排除する必要があります。折角自分の帰りを歓待してくれているのに・・・と思われるかもしれません。でもその分、吠えていなければ、いつもの倍くらいスキンシップをしてあげればいいのです。

例2)

飼い主さんが食卓に付くと、ハチは決まってご主人の足元にじゃれつきます。ご主人は「よしよしお前も欲しいのか・・」とハチにも少しだけ食事をわけてくれます。

解説)

ハチの「おねだり癖」を直すにはどうすればいいのでしょうか?もうおわかりでしょう。どんなにじゃれてきても決して食事をわけてはいけません。根気が必要ですが、この方法で罰を与えることなくハチの悪い癖を治すことが可狽ナす。

「吠える」という行動ひとつとってもその原因はさまざまですが「要求をするときに吠える」傾向のある犬の場合、吠えている間、あるいは、吠えた直後に犬の要求が満たされないようにすると良いでしょう。食事を吠えて要求する犬には、吠えるのをやめるまで食事を延期します。「おなかをすかせてかわいそうに・・」と思われる方もあるかもしれませんが、毅然とした態度で接することは犬の良きリーダーになるためにも大切なことです。

例3)

ナナはお散歩が大好きです。長いリードで自由に広場を走りまわったあと、帰る時間が近づき飼い主さんに「おいで」と呼ばれても決して戻りません。なぜなら戻れば、短いリードに付け替えられ、もう家に帰らなくてはいけないからです。

解説)

ナナにとって「いやなこと」は他ならぬ「短いリードに付け替えられ家連れて帰られること」であり、それを避けるために「号令に無視すること」を学習してしまいました。「おいで」の号令で戻ってくることを学習させるにはどうすればいいのでしょうか?戻ってきたときにナナにとって「うれしいこと」が起こるようにしてあげてください。暫く一緒に走ったり、ボールを投げて遊んだりしてもいいでしょう。ナナが一番好きな遊びやご褒美を「おいで」の号令に従ったときにだけ与えるようにすれば、「おいで」の号令が魅力的なものになるはずです。

方法2 :無視を使ってみましょう!

例えばどんなときに“無視“を使えばいいのでしょうか?

例1)

多くの子犬がそうであるように、サチも飼い主さんにじゃれては良く噛んでいました。人を噛んではいけないということを教えるため、旦那さんはサチが噛んだら首根っこを掴んだり、叩いたりして噛んではいけない、ということを徹底的に教えました。その結果、サチは、大人の男の人には決して噛みませんが、子供や女の人には噛む子になってしまいました。

解説)

この場合にはどのように「噛んではいけない」ということを教えればよかったのでしょうか?

まず、楽しく遊んであげてください。噛んできたら無視をします。無視するときに「痛い!」と大きな声を出してもいいでしょう。この場合の「無視」とは、くるっと後ろを振り返って相手にしないということでも、さっと席をはずしてしまう、ということでも高「ません。暫くしたら同じように遊んであげて、噛んだら同じように無視をします。これを繰り返すうちに「噛まなかったら遊んでもらえる」と学習します。

無視をする、という作戦は、飼い主さんが犬にとって大好きな存在でなければ効果がありません。無視されて悲しくない相手では意味がないのです。この方法を試みるときには、たくさん遊んで犬に楽しい経験をたくさん積んでもらうことも大切です。

例2)

ベルは飼い主さんに相手にしてもらえず暇を持て余していました。そんなとき椅子の足をガリガリ噛んでいたら飼い主さんがすっとんで来たのです。無理やり椅子から離されちゃったけど、とりあえず飼い主さんの気を引くことに成功したベルはとても満足だったのでした。

解説)

気を引くために望ましくない行動を取る犬がいます。人間はとかく「わざと悪いことをしている」と”故意”の仕業であるかのような言い方をしがちですが、犬に”わざと”などという気持ちはありません。「いたずらをする」という行為の直後に「飼い主さんが自分に注目してくれる」という「うれしいこと」が起こったために「いたずら」を学習してしまっただけなのです。

このベルのケースで大切なのはベルの行為に関心をしめさない、ということです。黙って椅子をベルの届かないところに移動するなどしてやめさせ暫く無視します。その代わり、遊んでもいいおもちゃで遊んでいたり、おとなしくしていれば、うんと誉めて遊んであげてください。

私たちは、とかく犬がひとりでいい子にしているときにはあまり誉めたりしないのに、困った行動をとって始めて注目したりするのです。これが犬の望ましくない行動を助長させている原因になっていることがある、ということを忘れてはいけません。

方法 3 :両立できない行動をさせるを使ってみましょう!

「両立できない行動」とはどのようなものでしょうか?猫や鳥を追いかけそうになったときに「おすわり」と号令し、飼い主に注目させれば、「追いかける」と言う行動と、「おすわり」という行動は両立できませんから、「追いかける」行動を阻止することができます。また、ごみ箱をひっくり返しそうなときに「おいで」といって飼い主の足元で横になっているように促せば、ごみ箱をひっくり返すこともなくなるでしょう。

このように、この方法は多くの場面で活用できます。

例1)

ルルはお客さんが大好きです。うれしくてお客さんに飛びついてしまいます。

解説)

ルルにとって「うれしいこと」は「お客さんの注意を自分に向け、にかまってもらうこと」です。とびつきそうになったら、お客さんにくるっと後ろを向いて2,3歩下がってもらいます。おすわりをしたら、正面を向いて近づきます。これを繰り返し、おすわりしているときにだけお客さんに高チてもらうように協力してもらいましょう。「おすわり」をすればお客さんとご挨拶がしてもらえる、と学習させるのです。「飛びつく」という行動と「おすわり」は両立できないので、おのずとお客さんに飛びつくことはなくなります。

“いたずら”と上手に付き合いましょう

犬は人間の子供と同じで、遊びを見つけ出す天才です。思わぬものを引っ張り出してきたり、信じられないようなところにもぐりこんだりするものです。

犬にとってはどれもみんな楽しい”遊び”です。人間は、この遊びのうち、自分たちにとって都合の悪いものだけを”いたずら”と呼ぶのです。

あなたのわんちゃんはどんな”いたずら”をしますか?人間の靴下やスリッパをくわえて逃げたり、タオルにとびついてひっぱって放さなかったり・・。どんないたずらをするのかよーく観察してみてください。それがあなたのわんちゃんの好きなことなのです。靴下をくわえて逃げる子はボールやフリスビーの「もってこい」が上手かもしれません。ひっぱりっ子の好きな子とはひっぱってもいいおもちゃで犬が疲れるまでまずは楽しく遊んであげましょう。

つまり、ものを運んだり、動くものを追ったり、ひっぱったり、噛んだり、掘ったりすることは、犬にとって生まれ持って好きなことであり、これらをすべてやってはいけないこととして禁止してしまうのは無理があるのです。まずは、遊びという形に変えてこの本狽桙スしてあげるための工夫をしてあげてください。むりやり禁止をすればその欲求不満が他の問題につながることもあるのです。

遊びの中で欲求が解消されている場合には人間の想像以上に”いたずら”しなくなるものです。