1. ~6か月
2. ~1歳
3. ~2歳
4. 2歳~
犬のしつけには誉めてあげることが大切、とよく言われます。この「誉める」とはどういうことなのでしょうか?何をしてあげれば犬に「誉めてもらっている」と実感させることができるのでしょうか?
人間と犬は、言葉も通じないですし種も異なります。その犬に対して、あなたの「誉めてあげたい」という気持ちを確実に伝えるためには工夫が必要です。
ご褒美、というと、食べるものを連想される方が多いかもしれませんが、必ずしもそうではありません。「いい子だね」と声をかけてあげることでも、撫でてあげることでも、おもちゃで遊んであげることでも、散歩に連れていってあげることでも、その場面において犬が喜ぶこと、うれしい、と感じることなら何でもご褒美になります。
犬は、リーダーの言うことを聞き、リーダーに従おうとする動物です。あなたの「誉めてあげたい」という気持ちが確実に犬に伝われば、犬も必ずそれに応え、さらに誉められるように振舞います。こうやって、あなたと犬との間にコミュニケーションが成立するのです。
言葉で「いい子だね」と誉めてあげるだけでは不助ェなのでしょうか?
もちろん、犬が望ましい行動をしたときに、即座に「いい子だね」と言葉をかけてあげたり、撫でてあげることはとても大切なことです。しかし、すべての場面で、あなたの「よくできたね」の気持ちを伝えるのにふさわしいご褒美として機狽キるでしょうか?
ちょっと想像してみてください。
あなたは、先週の週末、休日を返上して会社のために働きました。いつもお世話になっている上司に「急に大事な仕事が入っちゃったんだよ・・」と泣きつかれたからです。上司のために、デートの嵐閧焜Lャンセルして、なんとか仕事を終えました。
さて、今日は月曜日。あなたは、上司からどういう態度を示してもらったらうれしいでしょうか?そして「またがんばるぞ!」と思えるでしょうか?
- 上司は別に何も言わなかった。さて、いかがでしょうか?
あなたが週末仕事をしたのは、イタリアンのランチが目当てではなかったはずです。しかし、実際には、何も言われないより、何か言葉をかけてもらった方が、そして、すれ違いざまに礼を言われるより、目を見て言ってもらったお礼の言葉の方が、そして、缶コーヒーよりイタリアンランチの方が、「こんなにも上司は自分の働きに感謝してくれているのか・・」ということが伝わるのではないでしょうか?そして、こんなに感謝してくれるならまたがんばろう!と思うはずですね。
このように、言葉というコミュニケーション手段を持つ人間同士でさえ、「ありがとう」「感謝してるよ」「君のこと高く評価してるんだ」という気持ちを相手に伝えるのにさまざまな道具を使っています。
わざわざあなたの席までやってきて「ご苦労だったね」と声をかけてくれることは、もちろんひとつのコミュニケーションの道具(手段)です。そして、缶コーヒーやイタリアンのランチも、感謝の気持ちを伝えるためのコミュニケーションの道具として機狽オます。お中元やお歳暮なども、日本人が「お世話になってます」という感謝の気持ちを伝えるために編み出したコミュニケーションの道具だと言えますね。このような「気持ちを伝えるための道具」を何も使わずして、他人と助ェうまくやっている!と胸をはって言える人はいないのではないでしょうか?
言葉の通じない犬と人間との間でコミュニケーションしようとするなら、なおさらです。あなたの「よくできたね!」「いい子だね!」の気持ちを確実に伝えるためには、言葉以外のさまざまな道具を駆使する必要があるのです。人間は犬に対して、自分の気持ちを伝えるのに、どんな道具を使うことができるのでしょうか?
お礼の言葉を言ってもらうことも、缶コーヒーも、イタリアンのランチも、すべて共通しているのは、私たちの好きなものだ、ということです。もし、あなたがコーヒー嫌いだったら、感謝の気持ちはうまく伝わるでしょうか?上司が、あなたがコーヒーを飲まないことを知らなかったのならまだしも、知っていて「お礼だよ」と缶コーヒーを渡したとしたらどんな気持ちでしょうか?上司の感謝の気持ちはうまくあなたに伝わらないはずです。
まずは、伝えたい相手の好きなものをみつける、ということが、「気持ちを伝えるための道具」を使う上での第一歩です。
あなたの犬は何が好きですか?あなたがあなたの犬とよりよいコミュニケーションを築いていくための第一歩として、好きなものをたくさん見つけてあげてください。それが「よくできたね」の気持ちを伝える道具になるのです。
もしあなたが、休日出勤ではなく、通常の勤務時間中に頼まれた仕事をやっただけだったらどうでしょうか?
わざわざランチをご馳走にならなくても、わざわざあなたの席までやってきて「ご苦労さま」と言わなくても、廊下ですれ違いざまに、「ご苦労さん!」と言ってくれるだけで助ェうれしいのではないでしょうか?
私たちは、自分の気持ちを伝えるために道具を使うだけでなく、その道具をその気持ちの度合いに合わせて使い分けています。自分の気持ちを伝えるのに適切な道具を使っているのです。
こんな風に考えてみてください。
ご褒美は「評価」の道具なのです。どのくらい相手を評価しているのか、つまり、どのくらい感謝しているのか、すごいぞ!と認めてあげているのか、それを阜サする道具です。そしてもちろん、評価が高ければ高いほど、相手にとってうれしいものが道具として使われるはずです。
普段は、廊下ですれ違いざまに「ご苦労さん」と声をかけてくれるだけのあなたの上司が、休日を返上して働いてくれたあなたに、イタリアンのランチをご馳走してくれました。これは「休日を返上して働いてくれた」ことに対する評価の現れですね。
そして、その相手であるあなたは、いつもとは違う「お礼」の形に、上司の感謝の気持ちを感じ、「次もがんばろう!」という気持ちになるのではないでしょうか?もし、わざわざ休日を返上して働いたのに、いつもと同じように廊下ですれ違いざま「ご苦労さん」と言われただけでは、ちょっとがっかりですね。自分の行動に対して適切な評価、報酬が得られた時初めて「次もがんばろう!」という気持ちになるのです。
あなたの犬の好きなものが集まったら、好きな順番に並べてみてください。そして、どの位あなたが犬を評価しているのかによって、そのご褒美を使いわけるのです。それによって、犬にも、あなたがどれだけ評価しようとしているのか、誉めてあげようとしているのか、その気持ちが確実に伝わり、そして「リーダーに認められるようにますますがんばるぞ!」と思ってもらえるのです。つまり、ご褒美を上手に使い分けることによって、あなたの気持ちをより的確に犬に伝えることができます。
あなたの犬が「初めての'とってこい'」にチャレンジしようとしているとき、投げたボールをあなたのところにまで持ってきたらう~んと誉めてあげたいと思うでしょう。でも、あなたの犬はもうおすわりは上手にできます。おすわりの号令にちゃんと従ったとき、その評価(誉めてあげたいと思う気持ちの強さ)は、ボールをとってきたときとは違うはずです。
その差を道具(ご褒美)を使ってあらわしましょう。おすわりのときには、「いい子だね」と言葉をかけてあげるだけで助ェかもしれません。でも初めて”とってこい”に成功したときには、あなたの「よくできたね。偉かったね。」という気持ちを確実に伝えるため、もっともっと犬が好きなものを与えてあげる必要があるのです。
食べ物などのご褒美を使ってしつけると、ご褒美がないとやらない子になりませんか?
このような心配をされる方がたくさんいらっしゃいます。確かに、犬があなたの手元を見て、「何もくれないならやらないよ!」という態度を取るようになっては困りますね。ご褒美を使ってしつけをするときには、このようにならないように、ちょっとした心使いが必要です。
「上手にできたらこれをあげるからやって頂戴・・」
犬が何かをする前にご褒美を見せてしまうと、こういう意味になってしまいます。これは「賄賂」です。
ご褒美を見せておいてから「おすわり」と号令をかける場合には、ご褒美があればおすわりするけど、なければやらない、という子になってしまいます。
「よくできたね!上手にできてうれしいよ!誉めてあげるよ。」
これが正しいご褒美の使い方ですね。ご褒美は、「よくできたね」の気持ちを伝えるコミュニケーションの道具です。犬が号令に従ったり、何かいいことをしたりしたその後、あなたが素直に「よくできたね」と思ったそのタイミングでご褒美をあげるのです。(つまり、望ましい行動をした直後です。)この方法であれば、ご褒美がなければやらない子にはなる心配がありません。
ご褒美を賄賂として使う場合には、犬が要求するご褒美はどんどんエスカレートしていきます。「もっとおいしい物をくれないとやらないよ!」「もっとたくさんくれないとやらないよ!」と犬が飼い主をコントロールし始めます。
賄賂の要求がだんだんとエスカレートしていくのは、人間の世界でもみなさんよくご存知ですね。
「気持ちを伝えるための道具」としてご褒美が使われれば、むしろ逆のことが起こります。「とってこい」を練習し始めたときには、「今までできなかったことができるようになった」ということを高く評価してあげたいと思うはずです。そして、そのあなたの気持ちに見合った「道具」が使われるべきなのです。しかし、練習を重ねるにつれ「とってこい」が上手になってくると、あなたの気持ちも変わってきますね。練習し始めたときと同じ道具を使う必要はもうありません。徐々に効力の低いご褒美に変えていき、最終的には、「いい子だね」と声をかけてあげたり、撫でてあげたり、もう一度ボールなどのとってくるものを投げてあげることでもいいかもしれません。徐々にご褒美の量や頻度は減り、ご褒美の効力も比較的低いもので高墲ネくなってくるのです。
ご褒美を使ってしつけると、ご褒美で釣っているみたいで嫌なんです・・
このような声も良く聞かれます。
ここまで読み進めていただければ、お分かりいただけるのではないでしょうか?ご褒美は、「賄賂」ではなく「評価」です。
人間も同じように、自分がどれだけ相手を評価しているのか、感謝しているのか、誉めてあげたいのか、さまざまな道具を使ってコミュニケーションしています。それは、決して「釣っている」わけではないですね。
望ましい行動を誉めてあげるためには、その行動の「直後」にご褒美を与えなければならないのですよね?・・でも、すぐご褒美をあげるために、事前にご褒美を準備しておくと、賄賂になってしまわないのですか??一体どうやってご褒美をあげるのがいいのでしょうか?
「誉める」「評価する」「感謝する」ということにおいて、人間と犬とで最も異なる点は、人間は過去のことを振り返ることができるけれど、犬にはできない、ということです。
人間は、月曜日に会社に行って上司から「先週末はご苦労さま」と言われても、何に対して「ご苦労さま」と言われたのか理解することができます。
しかしながら、犬の場合には、「さっきのおすわりとってもよかったよ」と時間が経ってから誉められても、何に対して誉められているのか理解することはできません。
従って、犬にご褒美を与えるときには、望ましい行動の直後でなければなりません。おすわりしたことを誉めてあげたいと思っているときには、おしりが床についた瞬間に誉めてあげる必要があります。その後で誉めてあげたのでは、おすわりの姿勢から立ち上がったことを誉められたのかと勘違いされてしまうかもしれません。
このように、誉めるということには、タイミングがとても大切です。しかし、望ましい行動の直後に誉めてあげられるようにご褒美を翌゚用意しておいたのでは「賄賂」になってしまうのではないでしょうか?望ましい行動をとった瞬間に誉め、かつそれが「賄賂」にならないようにすることはできるのでしょうか?
もちろん、ご褒美を隠し持っておく、ということでもいいかもしれません。しかし、もっと良い方法があります。それがクリッカーの理論です。
クリッカーを使うと、誉めてあげたい瞬間を犬に確実に伝えることができます。そして、クリッカーを鳴らしてから、実際のご褒美を与えるまでに時間が空いていても高墲ネいため、「望ましい行動をした瞬間に誉める」「行動をした後でご褒美を与える」という2つの要求を満たすことができます。
食べるものが目当てで、私の言うことを聞いているだけなの?私の「いい子だね」の誉め言葉はうれしくないの?
大抵の家庭犬は、ご褒美として食べる物が大好きです。何より大好きであるはずのあなたの言葉かけや、あなたとのスキンシップが、どんなおやつより強力なご褒美にならないのはなぜでしょうか?あなたと食べ物を比べたとき、あなたより食べ物が好きだから?単純にそう考えてしまっていいのでしょうか?
これには、ちょっとした「からくり」があります。
そのご褒美が、ご褒美としてどのくらいの効力を持つかは、犬の好みにも左右されますが、それと同じくらい大きな要因がもうひとつあります。それは、そのご褒美とどの位の頻度で接触しているか、ということです。
ご褒美と普段から接触している頻度が高ければ高いほど、ご褒美としての効力は低くなっていきます。
例えば、毎日ジャーキーをたくさん食べている子は、ご褒美としていざあげようとしても、それほど大きな効力は持たなくなってしまいます。毎日、おいしいものばかり食べていると、最初はご馳走だったものも、たいして価値のないものになっていく・・というのと同じですね。
逆に、普段はあまりお目にかからないようなご褒美は、どんどんその効力を増します。ジャーキーも”ここぞ”という時にだけあげるようにすれば、犬にとって何よりのご褒美になります。
それでは、あなたの「いい子だね」の言葉かけはどうでしょうか?
室内で飼育されている犬の場合には特に、犬は、いつも飼い主さんの近くにいます。飼い主さんの声を常に耳にし、室外で飼育されている犬よりも声をかけてもらう頻度も随分高いでしょう。そして、スキンシップはどうでしょうか?何かにつけ、犬に触ったり、あるいは、犬から擦り寄って甘えてきたりしているのではないでしょうか?
つまり、飼い主がご褒美として使おうとしている言葉かけや、撫でてあげるという手段は、常日ごろから犬に存分に与えられていることが多いのです。そうなると、ご褒美としての効力はう~んと低くなります。あなたの声掛けや、スキンシップがそれほど大きなご褒美としての力を持たない秘密がおわかりいただけたでしょうか?決してあなたよりおやつが好き!ということではないのです。
ご褒美の使い方を例で示してみましょう。
ポチは、雑種でオスの犬です。つい先日5歳の誕生日を迎えました。これまで特にしつけはされてこなかったポチでしたが、もう少しお行儀のよい子になって欲しいと飼い主さんは考え、「おすわり」から練習することにしました。
ポチは、室内で飼育されていて、ご飯としてドッグフードを食べています。普段はおやつとして、犬用のガムやクッキーをもらっています。
まず最初にポチの好きなものを順番に並べてみました。これを「気持ちを伝えるための道具」として使うことにします。
1. レバー
2. ボール
3. チーズ
4. りんご
5. キューキュー音のするおもちゃ
6. ジャーキー
7. クッキー
8. ドッグフード
9. 「いい子だね」と誉めてもらうこと
ポチに「おすわり」を教えることにしました。
まずは、家の中で練習してみます。比較的ポチが集中できる家の中でトレーニングすることを考えて、6 番目に好きなジャーキーをご褒美を使うことにしました。何週間か練習をして、ポチは上手におすわりができるようになりました。徐々にジャーキーではなく、毎日のご飯のときに取り分けておいたドッグフードをご褒美として使ってみるようにしましたが、それでもポチは上手におすわりします。また、時々ドッグフードではなく、「いい子だね」と声をかけてあげたり、撫でてあげたりするようにしました。
家の中で、上手に「おすわり」できるようになったので、今度は、お散歩に出かけたとき、外でおすわりの練習をしてみることにしました。お散歩が大好きなポチには、誘惑がたくさんあって、なかなか飼い主さんに集中することができません。その誘惑に負けず、おすわりの号令を聞くことはポチには難しいことなので、5 番目に好きなキューキュー音のするおもちゃをご褒美として使うことにしました。上手におすわりができたら、キューキューならして暫く遊んであげます。
ポチには、大の苦手なものがあります。それは猫です。猫を見ると、体が勝手に走り出してしまいます。いくら飼い主さんに止められても、車のびゅんびゅん通る危険な道の近くであっても、猫を追いかけたい、という衝動を止めることができないのです。猫に出会ったときでも、おすわりの号令に従うことはポチには、最も難しいトレーニングです。これができたときには、レバーをあげることにしました。
毎日、猫に会うたびにこのトレーニングを繰り返したおかげで、ポチは最近、猫が近くを通っても、横目で追うくらいで、なんとかおすわりできるようになりました。最近ではレバーではなく、チーズや、りんごをもらっています。このままトレーニングを進めていけば、ジャーキーやクッキー、そして、最後には、毎回ご褒美をもらわなくても、上手にできるようになっていくでしょう。