一期一会(3)

犬を上手くしつけるのに大切なこと。それは愛情を持って犬をしつけること。実際に深い愛情を持って犬をしつけた人の体験が元になっているこの連載。犬のしつけに悩んでいる人にぜひ読んで欲しい。

Q.あることをすると犬のストレスが減り、しつけにいい影響を及ぼすと言われていることがあります。それは何?

1. 声かけ
2. おやつ
3. マッサージ
4. その他

一期一会(3):デジャヴ(第108号, 2009/1/30)

それは、不思議な感覚でした。

いつものようにボールを投げて犬とあそんでいたときのこと。私はウチの犬のある異変に気づいたのです。私が投げたボールを探すその様子が、今までとどこか違う。ボールはすぐそこ、目の前にあるのに、それを見つけることができない。

それは「病気」と呼ぶようなものではなく、生きてきた歳月とともに訪れる自然な変化であるとのこと。しかしそれが判明した後もなお、今までと違うその様子に、不自由はないのか、怖い思いはしていないかと、私はどんなに胸を痛めていることか・・。

なのに、その気持ちとはウラハラに、犬を見る私の目は、犬にさしのべるその手は、今までと何の変わりもなく動くのです。

投げたボールを追いかけるあの子の後ろ姿を、私はいつものように目で追い続ける。「アレ?アレ?」目の前にあるボールを見つけられずに、右に行き、左に行き、後ろに下がり・・次第に、ボールがどの位置にあるときに見えていないのかがわかってくる・・

「近くのものが見えないんだ。それなら、大きめのぬいぐるみを投げるようにしたらどうだろう? 視界に入りやすいんじゃないかな」。私の手は、何の迷いもなくオモチャ箱に伸び、そして気づいたのです。

「私、あのときと同じことしてる!」。

まだ幼くて、投げたボールを上手に取ってこれなかった頃には、少しでもくわえやすいようにと小さくて柔らかいボールを選んで使ってたっけ。イタズラ盛りだった頃にはわざとイタズラしてもいいものを出しっぱなしにして暮らしてたなぁ。

小さなボールから大きめのぬいぐるみに。雑然とした毎日から、つまづいたり滑ったりしないようにきちんと片づける毎日に。「不思議だな。逆なのに同じだなんて」。いつもそうなんだ。犬に何をするべきか、その答えは、犬の「行動」の中に必ずある・・。

今のあの子は、見つかりにくくなった分だけ、思いがけないところから思いがけない宝物でも出てきたかのように「あったよ!」とおおはしゃぎで駆けてきて、齢(よわい)10才にして見せてくれたそんな顔もまた愛しいなと思う。もしかしたら歳を重ねていくって、新しいキミに出会い続けることなのかもしれないな・・。(おわり)