小ささゆえの(2)

犬を上手くしつけるのに大切なこと。それは愛情を持って犬をしつけること。実際に深い愛情を持って犬をしつけた人の体験が元になっているこの連載。犬のしつけに悩んでいる人にぜひ読んで欲しい。

Q.あることをすると犬のストレスが減り、しつけにいい影響を及ぼすと言われていることがあります。それは何?

1. 声かけ
2. おやつ
3. マッサージ
4. その他

小ささゆえの(2):健やかに (第83号, 2008/3/11)

その人は、私に負けず劣らずの「行動分析学をこよなく愛する人」でした。

ある日、イルカのトレーナーをしていたその人が、私に教えてくれました。彼女たちがイルカに教えるのは、ショーのための行動だけではないのだと。たとえば、健康チェックの間、水面でじっとしていたり、体重計に乗ったり、健康管理に必要な行動や姿勢をトレーニングすることも大切なことなのだと。

それができなければ、移動させることが容易ではない大きなイルカの健康状態を診ることは、とても難しいことになる。華やかな世界の影で、動物の健康を守るために積み重ねられている日々の営み。しかもそれを「私はこのトレーニングを、何よりも大事に思ってる。健康管理に楽しく取り組めるようにトレーニングしておくことが、命を守ることにつながるんだもの」と胸を張った彼女の姿に、私は大きなショックを受けたのです。

私は自分の犬のために「健康を守るために何が必要か」と考えたことがあっただろうか。「楽しく取り組めるように」なんて考えようともしてこなかったのではないだろうか。それが簡単にできてしまう小ささゆえ、犬をつかまえ動かないように押さえる自分に、疑問を覚えることを忘れていたのではないだろうか・・。

「もうやめよう。犬を無理やり抱き上げ、動かないように押さえながらつめを切ったり足を拭くのは」。私の模索が始まりました。

「じっとしていたらごほうびをあげる」これで犬は押さえなくてもじっとしていられるようになるはず。でも、いきなり足を拭こうとして犬が逃げ出してしまったら?・・それじゃごほうびもあげられないから、最初は弱く、少しずつ強くさわるようにしてみよう。

つかまえたり押さえたり一切しない足拭きが、つめ切りが、ハミガキが、ブラッシングが、それがどんなに穏やかで楽しい時間なのかを知ってから、私は何かにつけ自分にこう問いかけるようになったのです。「私は今、この子が小さいのをいいことに、力ずくで何かしようとしていないだろうか。ほんの少し時間を割けば、犬はそれを受け入れ進んでするようにさえなるのに、私はその手間を惜しんでいないだろうか」。(つづく)