トイレのしつけケーススタディー

犬のしつけの第一歩、トイレトレーニング。4匹の犬の体験談をご紹介します。

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Q.犬のトイレのしつけ、うまくいくポイントは?

1. 無視する
2. 音をさせる
3. おやつをあげる
4. その他

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はじめに 私が夢中になったワケ

私の犬は、1歳半過ぎまでトイレを覚えることができませんでした。「おすわりやふせはなんとかできるようになった。でも、トイレがさっぱり・・」。泣きたくなるような日々が1年以上続いた後“行動分析学”に出会った私は、その理論に沿って「どうしてできないのか」「どうすればできるようになるのか」ということをじっくりと考えるようになりました。そんな日々が数ヶ月続き犬に変化が生まれ始めたとき、私はひとつの確信を得たのです。「おすわりやふせを教えることと似てるんだ!」。 その後私は、社会人大学院生として大学院に進み、行動分析学(心理学)を学び、子犬のトイレトレーニングの方法を研究しました。自分の立てたその仮説が正しかったのかどうかを確かめるために。自分の苦労を“教訓”に変え、今もどこかで苦労している誰かに役立ててもらうために。 私の犬も、今ではちゃんとトイレで排泄してくれます。しかも、トイレで排泄すると「上手にできたでしょ!」自信満々の撫薰ナ私や家族の元へ駆け寄ってきてくれるようになりました。トイレの場所を変えたときにも、引越ししたときにも、外泊したときにも、「ここでおしっこ・うんちするんだよ」と教えてあげるには何をすればいいか、今ならはっきりわかります。 そんな自信を得ることができたのは、この本に登場する4組の飼い主さんと犬たちのおかげです。4人の方々は、私の研究協力者として、私の作成したトレーニングプログラムを実施し結果を記録し続けてくださいました。4匹の犬たちは、「どうしたらトイレを覚えるのか」「トイレを覚えるまでの間には犬にどんな変化が生まれるのか」ということを身をもって私に示してくれました。 これは、あのとき子犬の時代を生きた犬たちから、これから子犬時代を生きる犬たちへのバトンリレーです。4匹の犬から受け取ったバトンを、私が未来へとつなぎます。これから先、1匹でも多くの犬が、たくさん褒められながら楽しくトイレトレーニングに取り組めますように・・と願いを込め、4人の飼い主さんと犬たちの大切な記録をここにまとめたいと思います。

ご参加くださった方々について

本プログラムは「おしっこレスキュー隊」と称し、インターネットサイト(現 いぬわら)や、ペットショップ経由で募集が行われました。ご参加くださった方には、以下のことをお約束・お願いし、事前にご了解をいただきました。

・トイレトレーニングの指導は無償で行います。

・プログラムどおりにトレーニングを実施し、その結果を所定の記録用紙に記録してください。

・取得していただいたデータやそこから導かれた結論は、論文や学会発表、資料などの形で公になることがあります。ただしその場合でも、個人が特定できるような個別のデータは決して公にはいたしません。

引用文献

小田史子 (2003) オペラント条件づけによる子イヌのトイレトレーニング:家庭における室内トイレトレーニングの介入事例 行動分析学研究, 18, 10-24.

行動分析学研究 2003 vol18 No1に掲載されたこの論文「オペラント条件づけによる子イヌのトイレトレーニング:家庭における室内トイレトレーニングの介入事例」は、日本行動分析学会 第2回論文賞を受賞しました。2004年9月5日、帝京大学にて行われた日本行動分析学会第22回年次大会における受賞講演の内容を、この冊子を利用してくださる方々と共有するべくここに紹介いたします。


論文賞受賞講演内容

トイレトレーニングを通じて私が伝えたいこと

きっかけ:私が夢中になったわけ

かれこれ6年前のことになりますが、私は1匹の子犬を家族として迎えました。そして私は、その犬にトイレを教えるということに大変苦労をしました。しつけの本に書いてあるとおりにやっているつもりなのですが、一向に覚えてくれません。部屋中いたるところに、おしっこやうんちをされ、そのたびに、片手にティッシュ片手に消臭剤を持って片付けて周る、という泣きたくなるような日々が1年以上続いた後、私は行動分析学と出会いました。

勉強していくうちに「トイレでおしっこやうんちした後でご褒美、おやつでもあげたらどうだろうか?」と思い立ちました。それでうまくいくという確信が、当時の私にあったわけではまったくありませんでしたが、かといってほかにいい方法が思いつくわけでもなく、とりあえずこの方法を続けたところ、少しずつ犬に変化が生まれ、6ヶ月くらいたったころトイレの心配がほとんどなくなりました。

当時よく思いました。「トイレで排泄した後にご褒美、とびっきり大好きなものをあげればいいって、どうして書いてあるものがないのだろうか?ひとつでも書いてあるものがあれば、こんなに遠回りしないですんだのに」。そして「それを後に続く人に伝えてあげられたなら、どれだけの人と犬が救われるだろうか。自信を持って、人にそう説明してあげられるようになりたいな」というのがこの研究を始めたきっかけです。

研究を通じて:一番うれしかったこと

データを取り、論文にすることで、自信を持ってそれを言えるようになったことは、まず私にとってうれしいことでした。でも私には、それ以上に大きな収穫がありました。それは、トイレを覚える過程で、犬の排泄回数が増えるという事実です。排泄後に強化子(ご褒美)をもらうようになると、ちびちびおしっこしたり、おしっこはでていないのに排泄のポーズをするようになったり、人が見ているのを確認した上でトイレに行ったりするようになります。

これはいいぞ、トイレトレーニングがうまくいっているかどうかのチェックポイントになるなあ、と思ってとてもうれしかったのを今でもはっきり覚えています。トイレトレーニングをしている間というのは、片時も犬から目が離せない大変な時期ですが、それでも、排泄回数や犬の様子にたしかに変化が生じていることに気がつくことができれば、それを励みにしてもらえます。

それ以来私は、トイレの相談に乗るときにはそのことを必ず言い添えるようになりました。そして実際に飼い主さんが、「本当に小田さんの言うとおりだ!ウチの子も、ちびちびおしっこするようになったぞ」と実感できるようになると、飼い主さんの態度にうれしい変化が現れることに私は気がつきました。それは、ほかの犬と比べなくなる、ということです。「ほかの犬はどのくらいで覚えているんでしょうか?」「本には2週間って書いてありますけど、ウチのはやっぱり遅いですよね?」と心配したりイライラしていた飼い主さんの口からそういったことが聞かれなくなります。

それはなぜなのか。私は、ほかの犬と比べる必要がなくなるからだと思います。昨日より今日、今日より明日、自分の犬の変化や成長に目を向けるだけで十分なんだ、と実感されるからだと思います。「早く覚えてもらうことより大切なことがある」たくさんの飼い主さんとお話しをさせてもらいながら、私はそう教えられたような気がします。学習していく過程をじっくり観察し、じっくり向き合ってみて初めて得られるものがある、そう思います。

今:私が一番伝えたいこと

たしかに、動物のトレーニングに携わっておられる方の中には、早く、効率よく、より高度なことを教えるために行動分析学を応用していらっしゃる方もいらっしゃいます。できるだけ完璧を目指す、決められた課題が確実にできるようにしてナンバーワンになることを目指していらっしゃる方もおられます。そのような目的も、当然あると思います。

でも私は、それとはまた違うものを目指したいと考えています。私の目指すところをひとことで言うのなら、「NO.1よりONLY ONE」です。「NO1でなくってもかまわない。人一倍できるようになるのに時間がかかってもちっともかまわないし、時間がかかるからってキミのこと、ダメな犬だなんて絶対に思わない。キミにだって学習する力がある。変わる力がある。だからキミのペースで、キミらしく、人間から愛される振る舞いを少しずつ身につけていけばいいんだよ。できるようになるまで、キミの学習に喜んでつきあうよ」犬にトイレを教えることを通じて、そしてトイレの心配がなくなった後もなお、人の心の中に、そんな気持ちがずっとずっと残り続けるようなそんなトイレトレーニングであって欲しい、それが今の願いです。そしてひとりでも多くの方にそんな気持ちを抱いていただけるように自分に何ができるのか、これからも考え続けたいと思っています。

小田 史子
2004年9月5日(帝京大学)

ご指導くださった日本大学生物資源科学部教授 河嶋 孝先生をはじめ、新しい示唆や発見を与えてくださる行動分析学会の先生方へ心より感謝を申し上げます。 以上


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